output43’s blog

誰かに都合よくいい感じで見せたい雑記

ほぼ裸の王様コート

今週のお題「人生で一番高い買い物」

 

コストパフォーマンスが非常に悪かった買い物。

ほぼ裸の王様コート。

社会人なりたての頃。とにかく手っ取り早くモテたい僕は、着手しやすい事から努力をしていた。髪型変えてみたり、車買ってみたり。いやいや、仕事がんばろうよ。仕事ができる人が一番モテますよ。知ってたさ。でもね。

で、

オシャレにも気を使っていた。

ただ、僕は本当のオシャレさんではないので、

「オシャレになる」

というよりも、

「オシャレに見える」

ことに重点を置いていた。

いや、実際はオシャレのなんたるかをよく理解していなかったので、

そして、

早く結果がほしかったので、

「オシャレしてます!ここがオシャレポイントです!」

ということを主張するファッションになっていた。

 木を掘ったような靴。

 絶対売っていない絵の具の色のTシャツ。

 売れ残り必須のカーテン柄のYシャツ。

まあ、結果オシャレではないという。今思えば。

でも、当時は、

「僕、オシャレですから!」

を主張することで、なんとかモテに近づけるのではと思っていたのだ。

結果、モテは遠くになりにけり。

 

で、冬のある日。

僕は服屋さんでコートを物色していた。

すると、店員さんが声をかけてきた。

「このコート、新しく入ってきたんですけど、オススメですよ。」

そのコート、見た目は、

 

映画「マトリックス」でキアヌリーブスが着てたみたいな黒くて長いコート。

 

あまり飾りとかもない、シンプルなコート。

 

「これね、紙でできているんですよ。」

 

「???」

 

店員さんの言葉にクエスチョンマークが並ぶ。

確かに触ってみると服のそれとは違い、なんかゴワゴワしているというか、固いというか。

画用紙を少しだけ丈夫にしたような感じ。

 

「珍しいでしょ。で、『オシャレ』でしょ。」

「お兄さん、『スタイルいい』から、『カッコよく着こなせる』と思いますよ。」

 

おいおい、そんな口車には乗らないよ。

 

ってこともなく、

「オシャレ」「カッコよく」などのキーワードで、僕は乗ってはいけない口車に乗っかった。

ブォォン。

 

促されるまま鏡の前で試着してみると、、、

 

着心地は、そのまんま画用紙の服を着ている感じ。

服用にカスタマイズされた感じ一切なし。

見た目は、(布とか皮のような柔軟性が無いので、)

「作られた形のまま固まっているコート」という感じ。

マネキンが着ている状態をそのまま保つ感じ。

腕、肩、とにかく動きづらい。

頑張って腕を曲げたりすると、画用紙にシワが入るのと同様なシワが入る。

 

「いやー、似合いますねー。着こなせる人ってそんなにいないと思うんですよね。」

 

お世辞には惑わされないぞ。冷静にならねば。

ちょっと話題を変えてみた。

「これ、紙って言ってましたけど、雨の日とか大丈夫なんですか?」

 

「いやあ、雨の日はなるべく着ないでほしいです。紙なんで。」

 

(えええええっ、、、コートなのに雨の日は対応してないのぉぉ。)

 

コートの表面にはうっすら「なんかコーティング」はされているみたいだけど、結局、水には弱いそうな。

 

「あと、イスにはあまり座らないで欲しいです。シワになっちゃうので。っていうか、紙が折れちゃうので。」

 

もはや、コートではない。「よくできた紙の工作」である。

まあ、買わないよね。普通、買わないよね。

で、買ってしまった。若気の至り。

 

変わっている=オシャレ=モテる

間違ってモテの公式を覚えてしまったばっかりに。。。

あれ、2万円ぐらいしたと思う。紙なのに。

 

でも、当時の僕は、勘違いしていたまま。

世界に一つ。自分しか着こなせないコート。

王様の僕に対して、仕立て屋のお兄さん(服屋の店員)も絶賛してたし。

まずは次の日、意気揚々と会社に着ていく。

コートのボタンがなくて、寒さが凌(しの)げないことなんて気にならない。はくしょん。

で、会社に着いたら、、、

 

きゃあ、素敵。羨望の眼差し。

 

とかなくて、かといって、馬鹿にされるようなリアクションもなくて。

 

「へー、変わってるねー。」

 

ぐらいの反応。

ぐぐぐぐ。

めげている場合ではない。仕立て屋のお兄さんは、かっこいいって言ってたし。

みんな本当の良さが分かってないだけさ。

僕のコートに対する気持ちは、ちょっと揺らいだけど、(なんならずっと心の中では不信感もあったけど、)、まだ折れてはいなかった。

まだいける!王様、負けない!

 

週末、僕は、会社でのコートの反応にめげることなく、

その「僕にしか着こなせないコート」を着て当時仲良かった女の子とお出かけした。

コートのおかげ!?で、楽しいおでかけ。充実。

やはりこのコート、使える!

ふふふーん♪

 

そんな気分とは裏腹に、この時、コートは終焉(しゅうえん)に向けて歩き出していた。

 

帰りの電車。

遊び疲れた僕らは、冬の電車の暖かさにやられて眠ってしまった。

膝の上には、軽く折り畳まれた紙のコート。

 

降車駅のアナウンスで僕らは目を覚ました。

ちょっと口元に違和感。そして悲劇。

 

コートに大きめのシミがあるううううう!!!

 

そう、ぐっすり寝ちゃってコートによだれが垂れてしまったのだ、、、

雨に弱いコート。水分に弱いコート。

急いでティッシュでシミを拭いたけど染み込んだまま。

そして、そのシミ、ちょっとよだれの香りもするような。。。

 

その後、コートは乾けどそのシミは何日経っても無くなることはなかった。

乾燥しているけどしっかり残るシミ。目立つシミ。少し香るシミ。。。

 

ほぼ裸の王様コートは、それ以来、愚かな王様に着られることもないまま燃えるゴミとして生涯を終えたのだった。

 

高い買い物。まさに貴族の買い物!

 

でもいいのだ。

ほぼ裸の王様コートは自分の命を犠牲にして僕に素敵な思い出を残していった。

あの日、シミの広がったコートを見て、仲の良かった女の子はめっちゃ笑ってた。

それは、決して裸の王様を馬鹿にする笑いではなくて、優しく包むような笑いだった。

シミにへこむ苦笑いの僕と、目が線になるぐらい思いっきり笑う楽しそうな女の子。

あの冬の日。暖かい電車の中での幸せな時間。

ありがとう、ほぼ裸の王様コート。

ありがとう、仕立て屋のお兄さん。

 

おしまい。